作品に込めた想い
The Story Behind
力を持つ者ほど、剣ではなく花を。
はじまりは、夢に現れたファラオ
なぜ突然、エジプトの壁画風の絵なのか――。
きっかけは、夢の中にこのようなモチーフが現れたことでした。それが何を意味していたのか、私には分かりません。ただ、「描きなさい」と言われているような気がしたのです。それが、この作品のきっかけでした。
剣ではなく、花を ― 構図が浮かぶまで
夢の中の光景を思い出していくうちに、全体のイメージが湧いてきました。ラーの目、流れるヒエログリフ、そして王の位置。その位置関係が、自然と浮かび上がってきたのです。
王には当初、剣を持たせるつもりでした。けれども、そうではない、という直感がありました。
そこから全体を見直したとき、なるほど、と腑に落ちました。力を持つ者ほど、剣ではなく花を持つ。権力や立場を持つ者こそ、力の弱い者に慈しみを持って接し、自らに与えられた使命を、感謝とともに果たしていく。作品は、そこへ行き着きました。
「天の目」― お天道様が見ている
ファラオの姿を、太陽神ラーの目が静かに見守っています。
日本には昔から「お天道様が見ている」という言葉があります。誰かが見ているから正しくするのではなく、誰も見ていなくても、自分の役割を果たす。自らの行いを、もう一人の自分の目で見つめること。逃げることのできない太陽の眼差しは、その象徴でもあります。題名の「天の目」には、その意味を込めました。
木は実り、足跡は残る ― 時を越えるもの
正しい使命を持つ者のもとには、やがて木が育ち、実を結ぶ。
そしてその生き方は、ピラミッドのように、時を越えて足跡として残っていく。
44.4 という数 ― 四と四で、しあわせ
作品寸法は 44.4 × 44.4 cm。私にとって「4」は、安定と王を象徴する特別な数字です。
画面の砂漠と宇宙の境界にも、「4」と反転した「4」が向き合うような構成を忍ばせています。
四と四。日本語の響きでは、「し」と「し」を合わせて ―― しあわせ。
力を得ることではなく、
その力を何のために使うのか。
この作品には、その問いを込めました。
天と人をつなぐヒエログリフHIEROGLYPHS
ラーの目とファラオのあいだを流れる文字の帯
ヒエログリフとは
ヒエログリフとは、古代エジプトの神殿や墓の壁面などに残されている、エジプト象形文字です。
この作品では、ヒエログリフを単なる模様として入れているのではありません。一つひとつの文字を調べたうえで選び、それぞれに意味を持たせています。
ラーの目の側 ― 天が与えるもの
ラーの目に近い側には、
「見返りを求めない愛と慈悲をもって、
人の試練や成長を見守り、生命を与える」
という意味を込めました。
文字の帯の下部と、花を持つファラオの手
ファラオの側 ― 人が果たすもの
そして、ファラオに近い側には、
「与えられているものに感謝し、
愛をもって、自分に与えられた使命を果たす」
という意味を込めました。
天は、見返りを求めずに与える。
そして人は、自分が置かれた立場の中で、
果たすべき役割を果たしていく。
その関係を、上下のヒエログリフで表現しています。
ファラオの胸に刻んだ九条の紋NINE-RAY CYMATICS CREST
今回のサイマティクス ― 王の心構え
私の作品には、毎回サイマティクスの模様を入れています。今回のテーマは「王の心構え」です。
日々の行動をみずから顧みる「はんせい(反省)」という言葉の音を、私のサイマティクス装置で板に響かせたとき、振動によって浮かび上がった形。それを九つ揃えて作ったのが、この放射状の九条の紋です。放射線で九条をなす紋は、日本の神紋・家紋にもほとんど例がありません。
九という数
古代エジプトでは、創造神アトゥムから始まる九柱の神々を「エネアド(九柱神)」と呼び、ひとつの神統として祀りました。この神々は、エジプトの言葉で「九」そのものを意味する語で呼ばれていました。またエジプトでは、三は「多い」を、三の三倍である九は「すべて」「完全」を表す数でした。
数秘の世界でも、三・六・九は宇宙の成り立ちに関わる数とされ、九はその最後に満ちる、完成の数です。
ラーの目の下で
太陽神ラーの目は、すべてを見守る存在の象徴です。そしてファラオの務めは「マアト」――真理・正義・秩序――を保つことでした。王は死後、その心臓をマアトの羽根と天秤にかけられ、釣り合わなければ先へ進めないとされました。王であるからこそ、心の内が問われるのです。
天の目で、自らを見る力
力を持つ者こそ、日々みずからを顧みる。自分を天の目、ラーの目で見つめる客観性こそが、自らの使命を正しく進めていくための力になります。
その心構えを表すこの紋を、ファラオの胸、心臓の位置に置きました。この心構えを胸に秘め、天の目とともに生きていく。この絵には、そうした王の姿勢を込めています。
音から生まれた形が先にあり、意味はあとから見つかりました。エジプトの九柱神も、数秘の九も、もとからそこにあったものです。それらが一枚の絵の中で重なったことを、私は大切にしています。
絵画作家 光日子(こひこ)