前職の頃、北海道の港町で公私にわたりお世話になった方がおられます。市の港湾行事を長年取りまとめてこられた、お人柄の温かなお方でした。私が作家として歩んでいく決意をお伝えしたとき、「それなら」と一枚の絵をご依頼くださいました。ただしそれは、ご自身のためではなく、ある方へ贈りたいのだ、と。お贈りする相手は、かつて日本の中央で活躍された、北海道出身の政治家の方でした。こうして生まれたのが、この「この景色を、未来へ」です。
大切にされてきた言葉から
どのような絵にすればよいか。ご依頼主様を通じて、その政治家の方が大切にされてきた信条を、ひとつひとつ伺ってまいりました。「一灯照隅、万灯照国(いっとうしょうぐう、ばんとうしょうこく)」――一隅を照らす小さな灯が集まれば、やがて国全体を照らす。そして「郷土愛」、さらに「信なくば立たず」。人としての精神性、誠実さ、そして人と人との信頼を、何より重んじてこられた方だと知りました。理屈で構図を組むのではなく、その言葉の余韻に身を浸しながら、直感の赴くままに筆を進めてまいりました。
桜 ― 一瞬に全てを懸けて咲く
まず心に浮かんだのは、満開の桜でした。桜は、一瞬に全てを懸けて咲き誇る、努力そのものの象徴です。短くも凛とした花の姿に、一隅を照らそうと生きてこられたその方の歩みを重ねました。
富士 ― 揺るがぬ志の中心
桜とともに、迷いなく浮かんできたのが富士の姿でした。富士は、揺らぐことのない日本の中心であり、不動の志の象徴です。時代がどう移ろうとも、芯を失わずに立ち続ける――そんな信念のかたちとして、画面の奥にどっしりと据えました。
寄り添う人と犬 ― 守るべきもの、信じ合うこと
景色の中に、そっと寄り添う女性と一匹の犬を描き添えました。女性は、守るべき大切なもの。犬は、献身的に寄り添い、信じ合うことの象徴です。誰かを守り、誰かと信頼で結ばれる――その和の心こそ、私たち日本人が古くから大切にしてきたものであり、日本という国が未来へ手渡していくべき宝だと感じています。
この景色を、未来へ
桜と富士、寄り添う人と犬。この一枚に描いたのは、私たちが未来へ残していくべき日本の原風景そのものです。お贈りした政治家の方にもたいへん喜んでいただけたと伺い、ご依頼主様も心から安堵してくださいました。お仕事としてお引き受けした一枚ではありましたが、その方の生き方に触れ、日本の原風景への想いを筆に託せたことを、私は深く有難く感じております。慌ただしい日々のなかで、ふと心を休められる一枚となってくれたなら、作者としてこれに勝る喜びはありません。
絵画作家 光日子(こひこ)