CYMATICS
サイマティクスとは、音を周波数として可視化した幾何学模様のこと。音の高さごとに、決まった一つの形が現れます。私はこの「音の形」を、絵の奥に沈めて描いています。
板の上に砂や塩を撒き、ある高さの音を鳴らすと、板の振動しない部分に粒が集まり、対称的な紋様が浮かび上がります。同じ周波数なら、いつでも同じ形。偶然ではなく、自然の法則によって形が定まっているのです。
ここが、曼荼羅(マンダラ)とは異なる点です。曼荼羅模様は、同じ図柄が幾何学的に並ぶことを特徴とし、世界中で古くから洋服の柄や建物の装飾に使われてきた、いわば人の手が生み出してきた模様です※。それに対してサイマティクスは、音の振動によって自然に現れる形。だから作品の一つひとつに「なぜこの形なのか」という必然が宿ります。
※ 曼荼羅模様の説明は、日本糸曼荼羅協会の解説を参考にしています。
この「音の形」を最初に体系立てたのは、ドイツの物理学者にして音楽家、エルンスト・クラドニ(1756–1827)。「音響学の父」と呼ばれる人です。1787年、金属板に砂を撒きバイオリンの弓で鳴らして紋様を記録し、著書に11枚の図版・166もの図形として残しました。今に伝わるクラドニ図形です。
のちに、この探究を音・水・粉のあらゆる物質へ広げ、「サイマティクス(Cymatics)」と名づけたのが、20世紀スイスの医師ハンス・イェニーでした。クラドニ図形を土台に発展させたものが、サイマティクスです。私の作品は、この正統な原型を参照して描いています。
『音響理論の発見』(1787)より。すべて音の周波数が生んだ、実在の紋様。




出典:Ernst Chladni『Entdeckungen über die Theorie des Klanges』Leipzig, 1787(パブリックドメイン)
私は、次のような手順でサイマティクスを作品に取り入れています。
これが、私のサイマティクスアートの拠りどころとなっています。
CYMATICS LAB
私の作品に描く紋様は、まったくの想像で描いたものではなく、自分の声から測った周波数を鳴らし、塩が形を描くのを確かめ、それをもとに描いております。実際に作ったサイマティクスの装置と、これまでの実験の記録をご紹介いたします。
| 部品 | 使用しているもの | 役割 |
|---|---|---|
| 振動子(エキサイター) | Dayton Audio DAEX25FHE-4 | 台の板に固定し、上面に振動板を貼り付けて、音を板の振動として伝える |
| アンプ | Nobsound NS-01G Pro | スマートフォンの音をBluetoothで受け、振動子を駆動する |
| 振動板 | アルミ板 | 四角に切り、塩の動きが見えやすいよう黒く塗ったもの |
| 粉 | 塩 | 振動しない部分(節)に集まり、形を描き出す |
| 音源 | 言霊サイマティクス・スタジオ(自作) | 自分の声の実測周波数を、言葉ごとに和音として鳴らす |



自作アプリで言葉の周波数を和音として鳴らし、Bluetoothでアンプへ送ります。振動子が板をふるわせると、よく揺れる部分の塩は弾かれ、揺れない部分(節)に集まって形が現れます。周波数は、自分の声を録音し、母音の響き(第一フォルマント)を一文字ずつ実測した値です。
同じ装置でも、言葉ごとに塩は違う姿を見せました。
あ621Hz + い234Hz


現れた形:棒のような形
は234Hz + ん352Hz + せ234Hz + い234Hz


現れた形:一本の線
か609Hz + ん352Hz + し305Hz + や633Hz


現れた形:ひとつの塊
へ223Hz + い234Hz + わ609Hz


現れた形:三つの塊
私の装置の板は四角く、現れる形は線や塊といった素朴なものです。私は、この実際に現れた形を手がかりに、クラドニが残した図形の中から合うものを探して重ね合わせ、最後は直感で決めて紋様に仕上げています。
たとえば「愛」では棒のような形が現れ、そこから五方向へ伸びる姿が思い浮かびました。それをクラドニ図形と重ね、桜の花のような紋様に描き起こしています。


※ 周波数は作者自身の声の実測値です。現れる形は、板の材質・大きさ・固定のしかたによっても変わります。